Artist stories 〜Mayu Osakabe〜
日常の中で感じる想いや記憶を作品に
刑部真由は日常の中で感じる想いや記憶をテーマにアートに描く。
物心ついた時から絵を描くことが好きで、自身で描いた漫画やイラストを友人に見せる毎日だったという。自身の不安を消す為や、救われる為に描いて生まれたものが多いというが、確かな技術と想いで、みる人を魅了する作品の数々。刑部真由がアートで描く世界観は、多くの方に共感されるのではないだろうか。そんなアーティスト刑部真由にインタビューしてみました。
絵を描くようになったのはいつからですか?
絵を描くのは昔から好きで、物心ついた時から描いていました。
むしろそれしか取柄がないような感じで、勉強やスポーツなどが全然できない子供でした。
なのでよけい絵で人から褒められる事が嬉しくて描いていたんだと思います。
小・中学生の時はノートに漫画を描いて友人に見せていた記憶があります。
今でいう日常エッセイみたいなやつですね。
友人以外にも漫画を描くのがとても上手な先生がいて、その先生に見てもらったり、今思うと周囲に肯定してくれた存在がいたおかげで自分を見失わずに済んだと思います。
中学生までは漫画やイラストばかりを描いていたので、本格的な油絵を描くようになったのは美術科のある高校に入ってからです。
そこで様々な基礎を身につける事ができたので良かったなと思っています。
なぜ油絵を選んだのですか?
失敗しても描き直しがきく
画面の絵の具を削ったり、垂らしたりという実験的な事ができる
絵の具のテクスチャーの面白さ
など…そんな部分が自分の性に合っていると思いました。
ですが何より、絵の具が混ざりあう事によってできる、独特な深みのある色合いが好きです。
自分の表現したい世界観に合っているので描いています。
また、油絵は歴史のある画材で何百年も前の作品が今でも残っています。
自分の絵を色んな方に持って頂く、後世に残すという事を考えた時、きちんとした「絵画」にしたいと思いました。
モネやターナーなど、印象派の作品も好きなので、そういう風に昔から考えるようになったのかもしれません。
光る(2021)
作品のコンセプトを教えてください
日常の中で感じる想いや、記憶をテーマにして描いています。
子供の頃からはっとする風景に出会う事がよくあって、それが今でも制作の根底にあります。
例えば冬の白い景色の中に映えるピンクの山茶花、割れた瓶の欠片が夕暮れの光に当たってキラキラとしていたこと、帰り道にふと見上げた空の美しさ、…。
風景や花を通して、目には見えない人の想いを描きたいと思っています。
こちらは「ふりつもる」シリーズです。
花びらが落ちて地面につもっている様が昔から好きで、どこか惹かれます。
そこには忘れていた記憶、感情を思い起こすものがあるような気がします。
人間は感情を持っていて、言葉を話して意思を伝えたり、話さなくとも表情や動きで気持ちを伝えることができます。
花もその時々によって、お水が欲しいのか、元気がないのかなど、感情を伝えてくれます。
綺麗だと言われる為に美しく咲いている花もあれば、野生の中で逞しく咲いている花もあります。
どの美しさにも、どこか浮世離れしたものを感じる事があって、それを自分なりに昇華させたいと思って描いています。
薄花の雨(2019)
また、子供の頃の記憶をより浮き彫りにしたものが「追憶」シリーズです。
その頃に遊んだ景色や、大切にしていたものを描いています。
おはじきの宝石を集める(2018)
なぜ絵を描くようになったのか?という先程のお話に戻るのですが、自分は本当に何もできない子供だったので、周囲に比べて劣っているという劣等感がぬぐいきれませんでした。
勉強やスポーツ以外にも他人とのコミュニケーションがとても苦手でした。
周囲と繋がれない・共有できないという寂しさは、絵を描く事によって、私を現実から逃避させてくれました。
この「劣等感」は年齢を重ねるにつれて、本人の努力次第でなくなっていくかもしれません。
周囲と繋がれるようになったら、絵を描かなくなるのでは?と思った時期がありました。
ですが今でも絵を描いています。
どんな環境になっても、おそらく自分を不甲斐なく思う事は変わらないような気がしています(笑)
子供のころの寂しさと、大人になってからの寂しさは同じで、誰といても一人で、一人で死ぬのだと思います。
その感覚を持ち続けたい・絵に表したいと思ってこちらのシリーズも制作しています。
絵を描く上で、どのようなことを大切にされていますか?
自分が描きたいと思った時の直感を大切にしています。
ほとんどの作品は、見たことのある景色や記憶をもとにしています。
近所を散歩している時や遠出した時など、日常の中でふと描きたいなと思う事が多いです。
数年経ってから、その題材を描きたいと思う事もあるので、また取材しに行ったりもします。
当時の記憶や感情とまた違った事を感じたりして、制作の種にもなります。
ざっくりスケッチでイメージを固めたら、すぐに油絵に入ります。
色見は薄く何層か重ねながら、深みのある色合いになるよう意識しています。
おつゆ描き(絵の具を油で水のように薄く溶いて描く)をして下の色を生かしたり。
技法にこだわりがあるわけではないですが、絵の具を滴らせたり、流したりすることによってできる独特の表情は面白く、制作する上で大切にしている部分でもあります。
描いている時は完成するまでずっと悩んでいて、基本的に苦しいですが、こういった遊びは楽しいのです。
「蜃気楼」の途中経過
好きなアーティストや尊敬する画家はいますか?
ピーター・ドイグ、ミヒャエル・ゾーヴァ・上田風子、酒井駒子、宇野亜喜良などはジャンルを問わず昔から好きな作家さんですね。
幻想的な世界観に惹かれます。
本や映画が好きなのでそこから調べて好きになる事も多いです。
また、モネやターナーなどの印象派は、光や自然を描くという点で影響を受けました。
リアルに、上手に描くという事に重点を置かず、筆遣いや色合いで表現する…こんなにも人の心に触れる絵を描けるんだなと学生時代に見て感動しました。
今後の夢や目標をお聞かせ下さい。
まずは個展を開きたいです。
グループ展は参加させて頂いていますが、一つの空間を自分の作品で作りあげるということはまだないので挑戦したいです。
また、本の装画やCDジャケットのお仕事にも興味があります。
本やCDを買う時、その表紙に惹かれて思わず手に取ってしまう事があって、それって絵の持つ魅力の一つですよね。
色んな文化に作品を通して混ざっていく事によって、美術が様々な方に知っていってもらえれば嬉しいなと思っています。
最後に皆さまにメッセージをお願いします。
私の作品は、自分の不安を消す為や、救われる為に描いて生まれたものが多いです。
ですがもし見た方が共感してくださったり、心の琴線にふれたら、こんなに嬉しいことはないです。
絵は、よく分からないとか敷居が高いと思われがちですがそんな事は絶対になく、身近にあるものだと思います。
例えばいつも使っているお気に入りの手帳の絵、マグカップetc...すべて作者が存在します。
絵を飾ることも生活に必要があるわけではありません。
いわゆる娯楽と言われるものです。
でも娯楽と呼ばれる音楽や映画が一切なくなってしまったらどうなるんだろうとふと思って、もちろん人によりますが私は生きていけないなと思ってしまいます。
絵だけが唯一、娯楽の中でも「ひとり占め」できるものなんじゃないかなと感じます。
生活している中で昨日とは違った表情を見せてくれる、語りかけてくれる。
皆様にとって私の絵が心の拠り所となれれば幸いです。
刑部真由(オサカベマユ)
静岡県生まれ。幼少期より絵を描いて過ごす。大学卒業後、ギャラリーで働きながら制作を続ける。風景や花を通して自身の心象を描く。2018年月刊美術「デビュー」入選。ホテル一宮シーサイドオオツカ、チャームスイート高円寺に作品収蔵。