Artist stories 〜櫻井 絵里〜

「ゼロ」をテーマに必然性と偶然性、矛盾や相反するものの間、多様性などを独自の技法で描き出す

美大で映像制作やインスタレーションの制作を学ぶも、卒業後に起きた東日本大震災をきっかけにうつ病と診断される。
気分の上下を保つため、マイナスでもプラスでもない「0(ゼロ)」をたくさん描いた。以来ゼロの持つ可能性や解釈を広げ自身の作品テーマとなっている。

作品を描き始めたきっかけはなんですか?

子供の頃から絵を描くことが好きで、最初は漫画やアニメのイラストを真似して描いていました。時々母が美術館に連れていってくれましたが、よくわからない作品ばかり並んでいてとても退屈でした。しかし、私が数秒で見終わってしまう作品の前で、他の人はずっとその作品を眺めています。それを見て「あの人が見ているものが私には見えてない。一体何が見えていないんだろう?」と思うようになりました。それ以来「アートとは何か」を考えるようになり、今もずっとアートの正体を探し続けています。

「ゼロ」をテーマにされていることについて

治療中に痛感したことは「物事は真逆のことで成り立っている」ということでした。死にたいという気持ちはよりよく生きたいという願いであること、気分がいい私も悪い私もどちらも一人の私であること。矛盾を受け入れること、心のバランスをとることの重要性に解釈を広げて、自分のことを描きながら病気の症状を知らない人にも共感できる作品にしています。

絵を描く上で大切にしていることはありますか?

アートのルールを守りながら、ほんの少し破ることです。まさに矛盾ですね。(笑)世界史と美術史と自分史の交わるところに作品を置くのが理想だと思っています。現在はフルイドアートという技法で、手ではなく水の流れや偶然の現象で絵を描くことはできないか挑戦しています。

どんな時に絵を描きたくなりますか?

「これはアートなんじゃないか?」と仮説がたった時です。絵を描くことが好きというよりアートとは何なのか知りたくてやっているところがあるので。新しい絵の具や道具に挑戦するときもわくわくします。仮説と実験を繰り返しているような感じです。

 

プライベートでの趣味やアート以外で好きなことはありますか?

自転車で少し遠くに行くことが好きです。気分転換になりますし、いい運動にもなります。知らない道を通ってみるのもちょっとした冒険みたいで楽しいです。あと英語の勉強をするためにアメリカ人のペンパルと英語で文通をしています。相手もアーティストなので制作の話をしたり、アメリカの文化について教えてもらっています。体調がよくなってきたので、もっと外に出ていろんな人に会いに行きたいと思っています。

独特な流線が印象的なのですが、道具や使用する画材、技法について教えて下さい

私が扱うフルイドアートという技法は比較的新しい表現なので、これが一番いいというやり方がきちんと確立されていません。ネットなどでいろいろ情報を集めていますが、自分で確かめてみないとわからないことも多いので、技法の研究にも時間をかけています。水の流れや表面張力など自然現象を利用して描くので、粘度が低くて流れやすい絵の具が使いやすいです。そうすると人間の手で描けないような思いもよらない偶然の模様が描けたりします。また、「矛盾」や「相反するものの間」を表現するために真逆の関係の画材を使うようにしています。例えば水と油とか赤と緑のような補色の色ですね。

行き詰まることはありますか?またその打開の方法はありますか?

筆を使わずに水の流れやオイルの反応で描いているので、行き詰まったり思い通りにならないことがよくあります。そういう時は自分の考えにないものが作れるチャンスだと思うようにしています。思い通りに制作すると、よくて自分の力100%しか出すことができませんが、自分以外の力を借りれば150%200%の力を出すことができるかもしれません。なので自分を抑えて水がどんな動きをしようとしているのか観察して引き出すようにします。そうしてできた絵は人間の手、自分の手で描けない新しい絵になっているはずです。

アートで解決したい社会の課題などはありますか?

私が3.11の震災で病気になった経験があるので、災害や大きな困難に直面して傷ついた人がアートの力を借りて立ち直っていく過程に興味があります。3.11以降多くのアーティストが被災地を訪れアートプロジェクトを立ち上げてきました。当時は私はダメージを受ける側になってしまい何もできませんでしたが、次に大きな災害が来たときはしなやかに立ち上がり誰かを支えられるような強さを持っていたいです。

アートが持っている力とはなんでしょうか

アートに力があるというより、人間が意味を見出したり、名付けずにいられない生き物であることが重要な気がします。花が咲いていたり、雲が浮かんでいることに大した意味はないけど、人間が見ると美しいとか、今日はいい日だと勝手に解釈して次のアクションが生まれます。アートもシンプルで真実であること、かつ誤解する余白がある作品はいい循環が生まれたり、誰かの助けになるのではないでしょうか。

今後挑戦してみたい事はありますか?

自分の家の外や東京以外の場所で活動することです。地方や海外にも行ってみたいので「アーティスト・イン・レジデンス」について調べています。これまで自分の治療やコロナの影響で外に出られない日が続いていたので、これからはもっと人の輪の中で生きていきたいという気持ちが強くなりました。コンクールも見つけたらどんどん出すようにしています。傾向と対策を練るのが結構好きなので、勝ち負けを恐れずに挑戦していきたいです。

櫻井さんにとってアートとは何ですか。

人生をほんの少しマシにするものです。生まれてきたことに大して意味はなく、生きることはつらい事ばかりです。でも死んではいけないから、つらいことから少しでも目をそらしたり楽しいことを見つけなくてはなりません。そんな時に傍にいられるような作品を作ることができればと思います。

櫻井 絵里

武蔵野美術大学 映像学科卒業
2021 銀座中央ギャラリー 夏祭り公募展 入選
2021 Melllow Art Award 2020 入賞

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