Artist stories 〜miotokyo〜
洗練された理想の空間を叶えるアート
豊かな感性の持ち主だからこその洗練されたアート。その背景には国内外で経験した様々な苦悩や、試行錯誤し削ぎ落とされてたどり着いた「境地」があるのだと感じさせられる。
「美術館に行って鑑賞するのではなく、身近に置くからこそ、永く付き合える、寄り添うようなパートナーになるような絵を描きたい。」
そう語るのは、現在26歳の気鋭の若手アーティストmiotokyo(大橋澪)。「絵は昔からずっと描いていた」そうだが、初めて作品を世の中に発表し販売開始したのは2020年。販売開始してから、1年間で250作品を国内外の個人邸宅、ホテル、オフィス、モデルルームなどに納品した実績を持ち、2022年にはシンガポール国立美術館での展示も控える。
今回は、彼女の表現する都会的で洗練された世界観の原点や、これから目指す未来をインタビューする。
絵にしかできないことは何かを考える
最初にアートを描いたきっかけは何ですか?
幼少期から絵は大好きで、両親に小学校3年生の誕生日に100色以上入った色鉛筆をプレゼントしてもらった時から、本格的に絵に目覚めました。コンクールにも入賞したりと、クラスに一人はいる「絵が上手な子」というイメージの子でした。(笑)
もともと街並みや景色を緻密に描き込み、目に映ったものをそのまま表現する写実的な絵を描いていました。
しかし、ロンドン大学留学時に一眼レフにハマり、ある日簡単にアプリで写真加工して絵画のように表現できてしまうことに衝撃を受け、「絵にしかできないことってなんだろう?」とそれ以来考えるようになりました。
そして行き着いたのが、抽象的なアートを創ることでした。
人は美しいものに出会った時、ポジティブなエネルギーが生まれる
miotokyoさんのアートは、「美」や「洗練」という表現が似合う作風ですが、この背景にはどんな想いがあるのですか?
私は、アートが必ずしも「美」を追求する必要はないと考えています。現に、過去の美術史の中で、「アートは美しくなければいけない」という概念から解放した偉大な画家もいます。
そのようなことは知りつつも、私が「美」としてのアートを追求するのには、大きな理由があります。 それは、人間は自分が「美しい」と思うものに出会った時には、ポジティブなエネルギーが生まれると信じているからです。
誰しも、お気に入りの服を身に纏って気分が高まるような経験をしたことがあると思います。
毎日過ごす空間に自分が「美しい」と思うものを飾ると、家を出る時に気が引き締まったり、疲れて家に帰ってきたときに癒されたり、ポジティブなエネルギーをもらえると思うんです。
これが、「美」の結晶としてのアートを追求する理由であり、創作の原点です。
美しいと感じたものを再構成する
現在は抽象画を描かれていますが、これは景色など具体的なものを描いているのですか?
最初はそうでしたが、今は「目に見えないもの」や、「そもそも世の中に存在しないもの」を描いています。
絵に表現しているのは、今まで私が「美しい」と感じたものを再構成したものなので、本来私の頭の中にしかないものなんです。
水滴が輝きながら滴る瞬間、朝日が空と海の地平線から昇った瞬間、神秘的な鍾乳洞の中に差す光....そんな静かな自然の美しさ。
また、映画や漫画アニメの1シーンや、モデルさんが颯爽と歩くファッションショー、ずっと嗅いでいたくなるような複雑な香水の香り...
このようなジャンル問わず、自分が美しいと感じ心が震えた瞬間を頭の中で再構成してアートに興し、見てくださる方にも作品を通して感じ取ってもらえるように表現したいと思うようになりました。
アートがいつも、どんなときも寄り添ってくれた
アートを描く上で、どのようなことを大切にされていますか?
作品を飾ってくださる方に寄り添う、多面的なアートを創ることです。家で静かに包み込んでくれる「パートナー」のような存在になって欲しいと思っています。
振り返ると、私はつらい時や、ぐっと堪えて頑張った後にはいつもアートを描いていました。
中学校時代にいじめられて仲間外れにされたとき。
思春期に海外で「アジア人」(日本人とすら扱われなかった)と馬鹿にされ、話すら聞いてもらえなかったとき。
また、寝る間を惜しんで勉強した学生時代や、死ぬほど働いた会社員時代。
大きなイベントが終わった週末は、そんな世界から逃避するかのように、一心不乱にアートを描いていました。
いつも、どんな時も、静かに寄り添ってくれたのがアートでした。
当時は気づかなかったのですが、きっと日常の延長線上にはない「理想の世界」をアートに求めていたんだと思います。
この日々の喧騒と決別し解放されたいという思いが、「miotokyo」という私の本名から独立した分身を生みました。
だからこそ、miotokyoの作品は「現実世界には存在しない美しい理想の世界」を描いており、また飾ってくださる方に寄り添うような作品になって欲しいと思うんです。
「明るくて元気だね!」と言われるような人でも、人に見せないところで実は悩んだり、落ち込んでいたりする。
そんな時に、アートがふと目に入り、原点に返り、「自分よく頑張ってるな。今日も1日がんばろう」と思えるような、そんなずっと家にいて、その人の日常のさまざまな場面に寄り添えるような存在になってほしいと願っています。
現在は育児とアート制作を両立させているそうですが、大変ではないですか?
正直、とても大変です(笑)
2020年夏に出産し、現在は一児の母になったので、朝早く起きて娘がまだ寝てる間や、育児の合間、また実母や時々ベビーシッターさんにもお願いして娘を見ててもらう間、隣で絵を描いたりしています。
描いている途中で、娘が目を覚まして、でも私は筆を持っていて絵具で手が汚れていて...都度中断されて、もどかしい時は多くあります(笑)
絵を描く時間は私にとって大切な自己実現の時間であり、社会と繋がる活動なので、育児とアートとのバランスは難しいですが、両立する方法を模索しながらやっています。
理解を示して協力してくれる家族の存在なしには絶対に成り立っていないので、感謝しかありません。
将来は、娘に絵の具をベタッとキャンバスに乗せてもらって、それを使ったアートを制作してみたいです(笑)
一言では言い表せない複雑な表現を、目に見えるアートで表現する
作品制作でこだわっている点は何ですか?
色使いです。私はほぼすべての色を自分で独自に混ぜて作っています。
そのため、単一に見える色でも、実は何色も混ぜて重ねて描いているので、複雑で折り重なってさまざまな表情があります。
(自作の色見本。基本的に既製品の色は使わず、自分が表現したい世界観を創る色を納得するまで混ぜて作ることにこだわっています)
ちなみに私が一番好きな色は、グレーです。
なぜかというと、全ての色に「グレー」になる側面があるぐらい懐が深いからです。
温かみのある赤っぽいグレー、冷たい青っぽいグレー、限りなく黒に近いグレーや、白に近いグレー。
「グレーな領域」という言葉があるぐらい、グレーは複雑で、奥深いんです。
こういう、一言では表せない複雑な世界を、目に見えるアートで表現したいです。
好きなアーティストや尊敬する画家はいますか?
匠の技術で人に寄り添うような庭や家具を作る職人さんやデザイナーさんです。
例えば、日本の石庭。あの良さが昔はわからず「石を並べただけでしょ」と思っていたんです。
でも今自分でアートを制作する身だからわかる。素人が真似しようとしても、あの佇まいにはならないんです。
なぜなら、あれはかなり技術がいる、匠の領域。
静かで、削ぎ落とされた「わびさび」の世界は、なんともいえない深い癒しで、心が洗われる感じがします。
「琴線に触れる」とはまさにこのことだと感じます。
また、機能性とデザイン性を備えた家具・家電デザイナーさんなど、それまで誰もやったことのないものを両立する革新的な方々に尊敬の念を抱いています。
例えば、日本製家電ブランドのバルミューダはわかりやすい例かもしれません。
「これかっこいいでしょ!」だけだと、機能性がなかったりする。でも「これハイスペックでしょ!」だと、デザイン性に欠ける。
そんな2つを両立する商品をデザインする方々は、私にとって最高に尊敬するアーティストの方々です。
シンプルだからこそ、難しい。でも完成したときその美しさは言葉を超える。
そんな領域にアートで到達したいです。
今後の展望お聞かせ下さい。
現在オンラインのみなので、個展やグループ展など、実際に作品を並べて展示したいです。
また、お客様の大切にしているものや思い出などお話をお伺いしながら一緒にアートを創る「co-creation(共創)」プロジェクトを加速したいです。
現在も複数行っており、お客様の間取りやインテリアの写真をいただき、ひとりひとりのストーリーをじっくり聞いた後に、私がアートをデザインし、何度もビデオ電話しながら一緒に作品をこだわって創り上げています。
意外と一見些細なところで、その方が大切にしていることが伝わってくるので、言葉の裏にあるような想いを汲み取ることを意識しています。
世界に一つだけのアートが完成するので、大変やりがいがあります。
このような、お客様の世界観と私の世界観をぶつけてゼロからアートを生み出し、永くお付き合いいただけるような作品を共創する活動をより多く実現したいです。
「好き!」という直感と自分の心を大切にして欲しい
最後に皆さまにメッセージをお願いします。
アートは、きっと精神的な豊かさをもたらします。
ぜひ、アートを飾ることで起きる空間や心境の変化を楽しんでいただきたいです。
私の作品でなくても、世の中に星の数ほどある作品の中から、もし「この作品、好き!」というものがあったら、ぜひそう感じた自分の心を大切にして欲しいと思います。
難しいことは考えずに、「好き!」という直感です。言語化できなくていいんです。
言葉の枠にとらわれないために、「アート」という形で表現されているわけですから。
そして、可能であれば、その作品をぜひ身近なところに飾ってみてください。できれば、永く付き合って愛でて見てください。
きっと、言葉にできないぐらい、楽しく、癒され、「ああ、飾って良かった」と思えるような毎日が待っていると信じています。
miotokyo (大橋澪)
オランダ・イギリス留学を経て世界30カ国を旅し、現在は東京で活動中。人生で出会う「美しさ」を再構成し、人々にポジティブなエネルギーを与えるアートとして表現している。2020年に活動開始後、1年間でモデルルーム、ホテル、オフィス、個人邸宅等に250作品を展開。2022年にはシンガポール国立美術館にて作品展示予定。
「理想の空間を叶えるアート」をコンセプトに、シックさと華やかさを両立したモダンな空間に合う絵を描き続ける。
写真:Tatsuya Nakano